科学技術館 実験・工作プログラム 開発と実践の現場
科学技術館内で毎日行われている演示プログラムは、スタッフがお客様に直接語りかけ、幅広い科学分野の現象を直に体験していただくものであり、科学技術館の最も中核的な魅力のひとつとなっています。このプログラム開発にあたっては、単なる楽しさにとどまらず、体験者が鋭い観察力を呼び覚ますことを意図して、当館スタッフが長い試行錯誤を重ねて独自のプログラムを練り上げています。ここでは、当館の演示プログラムを、どのような考えのもとに開発しているかをお伝えします。

対象を鋭く観察し、その魅力を見出せる感性を呼び覚ます
科学技術館で毎日たくさん実施している「実験ショー」などのプログラムは、無人の展示物と違い、スタッフが時間を決めてお客様に直接体験を提供する出し物です。展示物と比べると好きな時間に体験できず、体験人数も限定されてしまうといったデメリットがあるのは確かですが、展示物よりも柔軟に幅広い題材を扱うことが可能です。さらに、お客様に直接話しかけることにより、お客様の視線や思考を適切な「見どころ」のようなものに誘導することで、現象の面白さや美しさといったものを最大限に味わっていただけるという点が大きなメリットとなります。
科学技術館のプログラムの多くは、展示室のテーマや出展者様の意向により題材が定められている点を考えると、科学・技術によるエンターテインメントを指向するというよりも、むしろどんなものに対しても鋭く観察し思考する機会を提供することで、有意義な体験を引き出し、また何事に対してもその魅力を見出す観察力を喚起するということが、当館の趣旨としても大変重要であると考えています。
題材の制約からくる困難は、プログラム開発と日々の実施の段階において、各担当スタッフの腕の見せどころとなります。これは制約が少ない場合と比べると分かりやすくなります。
たとえば、広い会場で行う題材が自由な実験ショーを企画する時、巨大な空気砲の中に煙を入れて打ち、直径約50cmの空気の弾の形を見せるという実験は、見た目が大きく単純で万人受けするので定番です。しかし、これと同じようなインパクトを、「水溶液Aと水溶液Bを混ぜて色が変わることを扱う」というような制約のある題材で作り出すのは大変です。単純に考えると直径50cmの球体に収まるくらいの水量が必要になりますが、その重量は65kgほどになります。重すぎて扱うのが難しいだけでなく、毎日実験ショーのためにそれだけ大量の水溶液を作って消費し廃棄することは、できるだけ避けたいものです。このような場合は、平たい容器に入れて、誰でも手で扱える水量に収めるとか、手元カメラの映像を巨大スクリーンに表示するといったやりかたがありますし、そういうところで私共の過去の実験ショーの経験が活きてきます。

分かりやすい解説で「現象の意味付け」を大事に、分かりやすい説明で理解を促す
ただしそういった演出技術的な努力をしながらも、科学技術館として大事にしたいのは、現象の意味付けです。
水溶液を混ぜる実験(2025年3月にイベント「製薬協 クスリウム研究室」内で実施。9月から「くすりの部屋‐クスリウム」のプログラムでもスタート)でいえば、「pH指示薬となる物質が、酸とアルカリの中和反応が起きていることを示している」といったことです。そのためにpHの理解が必要であれば、それを必要最小限の範囲で、できるだけ分かりやすく説明することに努めます。プログラム開発の観点から見ると、このような説明によって、現象が小さくても、見る側にインパクトが大きくなるように作用するので重要です。
そのようにして、ある実験で何が分かるかを明らかにして、さらに実験結果からできるだけ広く深く考えられるように、実験の種類や順序、導入や結果考察のためのお話を工夫していくことで、「見どころ」が構成されてきます。これによりプログラムのもつ情報が密となり、体験の充実感が深くなるだけでなく、皆様が日々遭遇するさりげない現象を鋭く観察する感性を呼び覚ますきっかけとなることを願っております。〈つづきは、本誌PDF版でご覧いただけます〉
〈科学技術館運営部 丸山 義巨〉